「木の家は体にいい」「木は調湿してくれる」
こんな言葉を、家づくりを考える中で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。確かに、木は自然素材として優れた特性を持っています。しかし、実はすべての木が調湿するわけではありません。
木材には、製材方法によって「柾目(まさめ)」と「板目(いため)」という二種類の木目があり、その性能は大きく異なります。
柾目と板目の違い
柾目は、年輪に対して垂直に切り出した木材で、木目が真っ直ぐに通っています。一方、板目は、年輪に対して平行に切り出した木材で、タケノコの断面のような山形の模様が特徴です。
- 柾目
- 板目
この二つの違いは、見た目だけではありません。
柾目は、反りや狂いが少なく、寸法が安定しています。漢字で「木が正しい」と書くように、まっすぐで安定した性質を持ちます。そして、最も重要なのが調湿効果です。柾目は水分を通す性質があり、湿度を自然に調整してくれます。
一方、板目は、反りやすい性質を持ちます。「木が反る」と書いて板目。その名の通り、湿気を吸うと膨張し、乾燥すると収縮するため、反りが生じやすいのです。また、板目は水分を閉じ込める性質があり、調湿効果はあまり期待できません。
昔の人は、使い分けていた
昔から日本では、この二つを用途に応じて使い分けてきました。
柾目は、お櫃やすし桶など、調湿が必要な用途に使われてきました。ご飯の余分な水分を吸収し、適度な湿度を保つことで、美味しさを保つことができるからです。
一方、板目は、酒樽や醤油樽など、水分を漏らさない用途に使われてきました。水分を閉じ込める性質を活かした知恵です。
「木は調湿する」という言葉の危うさ
「木は調湿します」という言葉は、世間一般に広く知られています。しかし、正確に言えば、調湿するのは「柾目」で「自然乾燥」された木です。この二つの条件がそろって初めて、調湿効果が発揮されます。
板目の木材を使っても、調湿効果は期待できません。にもかかわらず、「木なら何でも調湿する」と思い込んでしまうと、期待した効果が得られない家になってしまいます。
関連記事:【プロが解説】「木の調湿効果」はウソ? 本当? 性能を発揮する3つの条件(自然乾燥・柾目・無塗装)
なぜ柾目が少ないのか
柾目は、大きな木からしか取ることができません。しかも、製材しても柾目として使える部分は板目に比べて少なく、どうしても高価な材料になります。
現在日本で多く使われている杉やヒノキは、戦後に植林されたもので、樹齢約60年ほどです。木が小さいため、柾目を取ることが難しく、市場に出回る木材のほとんどは板目です。
一方、私たちが使っているもみの木は、樹齢約200年から300年の欧州産もみの大木です。長い長い年月をかけて成長した木から、やっと柾目の内装材を取ることができます。
家づくりのプロとして
私たちは、木の特性を理解し、適材適所で使い分けることが、家づくりのプロとしての責任だと考えています。
構造材や下地材には板目を使い、内装材には柾目を使う。それぞれの特性を活かすことで、長く快適に住める家が実現します。
「木は木でしょう?」と考えるのではなく、木の特性をしっかりと理解した上で家づくりを進めることが大切です。もし、住宅会社の担当者が「木なら何でも調湿します」と説明しているとしたら、少し注意が必要かもしれません。
柾目と板目の違いを知ることは、後悔しない家づくりの第一歩です。ぜひ、木の特性を理解した家づくりを選んでください。
